タスマニア・再訪編 〜養蜂家・ジュリアンさんの哲学に触れる〜

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世界一おいしいと言われるタスマニアのはちみつが2009年1月よりラベイユの定番商品となりました。
入荷を控えた2008年のクリスマス前に、ジュリアンさんを訪ね、手つかずの大自然が広がる採蜜地を巡りました。
自然を愛し、守り続けることを使命と考えるジュリアンさんとの3日間はタスマニアのはちみつのように濃密な時間でした!
メルボルンからタスマニア島へ
タスマニアへはメルボルンから50分で、ローンセストンという街に到着する。飛行機は40〜50人乗りのプロペラ機で、乗客の大半は観光のようだ。飛行機に乗ってしばらくすると、タスマニア島が見えてきた。時間は夜の8時30分まだ陽は沈まない。空から見る夕日と、タスマニア島は美しい。緑と山、湖が見えてきた。うっすらと靄のかかった山峰はなんとも幻想的だ。空港へ到着し、スーツケースを受け取ったころにはすっかり暗くなっていた。タクシーを探し、ホテルへ向かった。

今回泊まることになった宿はよくある”Bed&Breakfast”で、朝食と寝床込みがセット価格になっている。ダイニングやリビングなどの共有スペースがあり、一般の家庭に泊まるスタイルだ。知り合いに勧められた上、料金も手頃だったのでここに決めたのだった。着いてみると、お城のような大邸宅で、たじろいだ。ホテルの名前はWerona、アボリジニーの言葉で”静かな場所”という意味。1908年にローンセストンで靴屋を営んでいたThomasさんがこの家を建て、奥様と7人の子供と住んでいたという。 今もドアには子供の名前が書かれていてルームナンバーの代わりになっている。ちなみに私の部屋はKathleenだ。建物や庭はイギリス風で、それがまた100年の歴史とともに高貴な雰囲気をかもし出している。

現在のホストは、50代〜60代くらいの夫婦ベティーさんとトニーさん。2年前にここに泊まり、とても気に入ったので買い上げて住むことにしたという。うらやましい。
明日は養蜂家ジュリアン・ウォルフハーゲン氏と会う。初夏の養蜂場を見せてもらい、その周りの自然も見て回る。繁忙期なので、迷惑にならないよう作業を手伝うつもりできたが、「あまりやってもらうことはないかもしれない」と言われてしまった。言われてみれば当然だ。細腕で養蜂の経験もない人間に大事な仕事を任せることはできないだろう。そうはいっても、こちらはわからないことでいっぱいだ。わからないことは質問し、できる限り学びたい。
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飛行機からタスマニア島を眺める。 image
お城のような立派な外観にビックリ!
クリスマス・ブッシュと大草原の花々が採れる町へ
結婚式を思わせるようなダイニングルームで静かな朝食をとった。朝食の蜂蜜をチェックする。この宿ではユーカリが混ざったような百花蜜だった。ジュリアンさんが、ホテルまで迎えにきてくれた。これからクリスマスブッシュのはちみつが採れるパースへ向かう。車中では早速質問をする。“なんでも聞いてくれ”と言ってくれた。

ローンセストンの移民について聞いてみた。オーストラリアでは移民は初め、ヨーロッパ(主にイギリス人)からシドニーに入り、それからタスマニアのホバートへの入植し、そしてホバートからローンセストンへ人々が移動し、これを第3次入植というそうだ。これが1800年。主にイギリスの囚人が連れてこられ、奴隷のように強制労働させられたという。オーストラリアにはアボリジニーがいて4000年の歴史があったが、移民により、彼らの文化や生活はすべて否定され、彼らの文化が失われてしまったという。今では白人のオーストラリア人にとって、入植は暗い歴史となってしまったという。

途中道端でトカゲをみつけて、ジュリアンさん、車を止めた。トカゲの写真も撮った。車に乗っていて、トカゲの姿を確認できるのは正直すごいと思った。また車に乗ってしばらく行くと、道端に倒れている小動物がいたが、これはウォンバット。車道でひき殺される動物は後を絶たないという。道中に見えた山脈を指差し、Western Tiers Mountainと教えてくれた。彼が子供時代を過ごした場所だった。父親が羊飼いで、ジュリアンさんは森の中で木を切り倒した時に中に大きな穴が開いていて、そこにミツバチの巣をみつけては面白くて、それを取ってみたり、食べたりしていたという。

養蜂場に近づいて来たところで、クリスマスブッシュの木を見つけた。花が咲いている。花を触ろうとすると、すぐそばからとげが出ている。刺されたら痛そうだ。今年は気温が低くて、全体的に開花が遅れている。後、1週間〜2週間もすればすべてのクリスマスブッシュが花開くという。クリスマスの時期に咲くため、クリスマスブッシュという名前になったそうだ。すぐ近くの養蜂場へ着くと、ほとんどの木がまだつぼみだった。

ジュリアンさんの弟子となって働く二人の養蜂家が、採蜜前の最後の点検作業をしている。蜜が採れるか、採れないかにかかるとても重要な作業だ。大事なチェック項目は、ミツバチがHappyかどうかということだ。女王蜂がいて、健全に巣が保たれていることをチェックしなければならない。巣箱にミツバチが増えていれば、そのまま空の巣箱を上に重ね、採蜜を待つだけだ。女王蜂がいなくなっているところには、女王蜂を入れる。ミツバチは、巣箱を開けられ、チェックを受ける。この日は外は寒く、蜜が採れないためどのミツバチも攻撃的だった。巣箱の写真と思った矢先、”チク〜”全身の力をこめてミツバチが私の人さし指を刺した。指は赤くなり、パンパンに腫れ上がった。あまりの痛みに話が上手くできず、ジュリアンさんの話もうわの空になった。

そこで気を取り直して、作業をする養蜂家に聞いてみた。一日に何回刺されるのか。作業が多いときには、一日100回〜150回は刺されるという。刺され具合にもよるが、ジュリアンさんを始めお弟子さんたちも素手で、作業をする。ミツバチを殺さないためだ。手袋をしないと、巣箱の振動から、ミツバチの様子を察知することができる。巣箱を重ねるときや、巣枠の出し入れのときに一匹も犠牲にしたくない、そんな気持ちからだ。ジュリアンさんは、現在養蜂作業の部分は、弟子に任せているが、彼らのマネージメント(作業のチェック)をしている。ジュリアンさんには養蜂家として重要な仕事がある。ターゲットとする蜜源植物、およびそこに自生する植物を観察し、どのタイミングでどこへ巣箱を置いたらいいか、それを判断することだ。この判断を誤ると、上質な単花蜜は取れない。これを見極め、弟子たちに指示を出すのが彼の仕事だ。

昼食は、近くのEvandaleという小さな町で取った。カフェでは、オーガニックのスモークチキンを使ったサンドイッチをいただいた。ジュリアンさん行き着けの肉屋で作られたものだそうだ。そこの肉屋は添加物などを使わず、オーガニックの食肉を使っているという。ジュリアンさんは、できる限りオーガニックのものを食べるようにしている。それが環境を守ることになるからだという。「現代人はなんでも安いものを買おうとするが、今自分が支払う対価が安くても、それが環境にとってどれだけ高くついているのか知っていなければならない」と警笛をならす。昼食後は、タスマニア島北東部、「大草原のはちみつ」の取れるScottsdaleという町へむかった。
Scottsdaleは、農業や林業の中心地で、美しい牧歌的風景の広がる草原の町だ。野に咲く花にはホワイトクローバーを始め、ブラックベリー、アザミなどがある。この時期全ての花は咲いていないが、かわいいクローバーの花にとまる蜜蜂を見ることができた。
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大きなトカゲにビックリ! image
クリスマス・ブッシュの花には鋭い棘がある。 image
巣箱が準備されている。 image
手元に注目!素手での作業にこだわりが。 image
草原の中に巣箱が準備されている。
レザーウッドを求めて野生の森へ
2日目(20日)は、レザーウッドの森を訪れる。この時期花は咲いていないが、野生の森が広がる西海岸へ向けて出発した。目的地はFranklin-Goldon Wild Rivers National Park。

道中、林業用の人工的な森などがあると、ジュリアンさんは悲しそうに嘆く。この林業によって多くのレザーウッドが伐採されたと。人は印刷用紙のために人工林を作るけれど、人工林は環境にとって良くない。農薬や除草剤を撒くばかりか、単一の木しか植えないので、単一の虫を呼び、生態系が壊れるという。
だんだんと自然の森が見えてきた。野性の森を切り開いてその間を車で走っている。そんな印象を受けた。道端では、ウォンバット、うさぎ、ワラビーといった動物が血を流して死んでいた。正直この道路を車で走るのは罪悪感を感じる。ジュリアンさんは小動物には目ざとい。道路わきに動物が出てくると草むらに隠れている動物にさえも、反応してすぐに車を止める。一度はEcidna(エキッドナ)という動物を見た。卵を産み、乳で育てる珍しい動物だそうだ。動物には一切おじけづかない。すぐに近づいて触る。彼にとってはすべての植物や動物が、養蜂に関わっている。 目的地までの国立公園では、いろいろな植物とその名前、蜜源になるかどうかなどを教えてくれた。自然林には多種多様な植物が自生していることがわかった。

ここで大事なことを教わった。レザーウッドの花が咲くときに巣箱を置けばいいのではなく、同じ時期に他にどんな花が咲く可能性があるのかを知っていなければならないということ。今、まだレザーウッドは花を咲かせていないが、そこにはつぼみがある。他の植物もある。今この森がどうなっていくのか、どんな植物が繁殖しているのか、花は咲いているのか。つぼみなのか。その花から蜜蜂は蜜を採るのか、花粉を取るのか。そうしたことを観察し、分析し、一番美味しいレザーウッドのはちみつを採るには、どのタイミングで、どこに巣箱を置いたらいいのかを考えるのだという。

ジュリアンさんの自然への思い入れは、人一倍だ。自然林といっても放っておいて、維持されるものではない。ジュリアンさんは、すでにタスマニアの3つの自然保護団体に所属し、森林の保護、とりわけレザーウッドの保護について、強く訴えてきたという。
車窓から見えるのは、どこまでも続く美しい大自然だ。人や建物が全く無い。大自然の中で孤独に車で走りぬける。そんなことを寂しいとも不便だとも思わず、大自然に向き合い、そこに愛情を注いできた。ジュリアンさんはそういう人なのではないかと思った。

長い長い道のりを経て、やっとのことでFranklin-Goldon Wild Rivers National Parkに着いた。こここからは、車から降りて散策路を歩くようになっている。様々な植物の自生するこの森は、土が湿っているせいか苔などが繁殖しており、日本の自然を想わせる美しい場所。ほっと癒される気分だ。マヌカの木やユーカリの木も自生する、手付かずの自然が残っている。
こんな美しい森で採れるのが、レザーウッドのはちみつ。美味しさの理由は、この自然。空気が柔らかで、体の中から癒される。土や草木の香りが、濃く立ち上る。
レザーウッドの花はまだ咲いていないが、樹齢100年ほどのレザーウッドの木が多く見られた。蜂蜜を採るには、樹齢100年ほどのレザーウッドがなくてはいけない。若いレザーウッドでも蜜は採れるが、養蜂をするには量が足りないという。 神秘的な自然の雰囲気に、酔いしれた。
後ろ髪惹かれる思いで車に乗り込み、今来たコースを戻り、帰路へつく。途中、双眼鏡でワラビーやバンビを見ることができた。

帰り道では、自然と人間というテーマで議論が白熱した。
ジュリアンさんは、とりわけモノカルチャーを批判する。ここオースラリアでも、同じものを大量に生産し消費されている。同じものを大量に作るためにどういうことをしているのか、その対価がどれほどのものか、皆が知らなければならないと主張する。
自然の中で同じものなど、何一つ在り得ない。自然であるということは一つ一つが違うということだ。ワインと同じように、蜂蜜の味も食感も、毎年違う。それは自然の産物だから。
一方で、彼は大自然の中に住まう人としての使命も感じている。都会の人は、町の変化には気付くが、自然の変化を見ることはあまりない。しかし、田舎に住む人は自然の変化に気付きやすい。都会の人が見ることのできない自然を見守り、保護していくのは、田舎に住む人の責任だという。だから、自然を目で見て、それを守っていきたいと思っている。人や社会を批判するだけの人にはなりたくない。自ら行動していく人になること。これが、彼のポリシーだ。

ローンセストンへ戻るころには、すっかり暗くなっていた。一日で何キロ走っただろうか。移動が多かったせいか、体が重い。運転してくれたジュリアンさんも疲れていたようだった。宿まで送ってくれたが、車を降りてからもまだ話をしてくれた。大切なことをより多くの人に伝えたい、そういう情熱が伝わってきた。

今回、養蜂家ジュリアン・ウォルフハーゲンという人に密着し、その哲学に触れることができた。蜂蜜を採ることは、自然や環境を守ることだということ、そのことを強く認識させられた。
生物学者であり環境運動家でもある情熱の養蜂家・ジュリアンさんに出会い、自然と人間の共存について改めて考えさせられた。
彼と出会い貴重な素晴らしい時間をいただけたことに、心より感謝したい。
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はりねずみのようなエキッドナ。逃げ足が早い! image
フランクリン・ゴールデン・リバー。心地のよい湿気に癒される。 image
ボタングラスという植物の根から流れたタンニンで、川がオレンジ色になるそう。 image
樹齢300年の大木も! image
途中には立ち枯れた木も… ジュリアンさんは自然について語ってくれた。 image
自然を愛する哲学者でもある、養蜂家・ジュリアンさん。
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